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大阪高等裁判所 昭和50年(く)69号 決定 1975年10月07日

少年 D・Y(昭三五・七・一五生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告申立の理由は少年作成の抗告申立書記載のとおりであり、要するに原決定は自分がしてない事実も認めているので事実の誤認があり、また自分は中学校生活を続けたい希望であるのに、少年のグループのうち自分だけを初等少年院に送致した原決定の処分は著しく不当であるというのである。

そこでまず事実誤認の主張について考えるに、少年がいう自分がしてない事実とは原決定が認定した非行事実をいうことは明らかであるが、そのうち具体的にどの事実を指すか不明であるばかりでなく、少年保護事件記録を精査すると、原決定が認定した合計五一件の非行事実につき少年は捜査官に対してはおおむねこれを認めているうえに、その他関係証拠に照らし右各事実は優にこれを認めることができ、原決定には事実誤認の廉は認められない。(なお、検察官から送致された犯罪事実のうち司法警察員作成の昭和五〇年八月一九日付少年事件送致書に記載の犯罪事実一覧表中進行番号35および52は原決定において犯罪の証明が十分でないとして非行事実から除かれており、同番号5、9および15は一四歳に満たない者の行為として少年法三条二項により保護処分の対象となつていない。)

次に少年に対する処分が著しく不当であるとの主張について判断するに、少年保護事件記録および少年調査記録によれば、少年の非行は早くも小学校六年ごろからはじまり、以後万引、自転車盗、同級生に暴行を加えるなどの触法歴があり、警察の補導や児童相談所の保護的措置を数回受け、中学校の教師においても直接あるいは少年の家庭を通じて指導監督を続けたにもかかわらず、少年は特に昭和四九年に中学二年に進級してからは怠学、欠席がはなはだしく勉学意欲が全くなくなり、基礎的学力も身につけないまま学内の不良グループのいわゆる番長として他の生徒を巻き込み学内で恐れられる存在となり、その過程において本件五一件にわたる多数の犯行を繰返したものであつて、その態様もほとんど学内あるいは同級生に対してに限られているとはいえ、単独あるいはグループの子分格の者とともに、場合によつてはそれらの者に命令をしてて、些細なことから同級生に暴行を加え金品をまきあげ、学内ばかりでなく他の学校に忍び込んでの窃盗を敢行し、はては教師から自己の態度を注意されたことに反発して暴行を働くなど悪質であり、これらのことからすると少年の非行は習慣化し、その非行化傾向は相当深化しているものと認められ、鑑別結果通知書により認められる少年の性格の偏倚性、学校側においても現在では少年の指導に自信を失つている状態であること、少年の父がアルコール中毒で勤労意欲は全くなく固よりそのような父に監護能力は望むべくもなく、母は監護意思はあるものの父に代つて稼働し一家の生計を支えていかなければならないため結局のところその監護に期待することはできないこと、少年の非行性の深化の程度からみて教護院ではもはや少年に対する処遇が困難であると認められること、その他記録にあらわれた諸般の事情に徴すると、少年が令まで一度も保護処分を受けた経験がないことを考慮に入れても、もはや少年に現在の中学校生活を継続させ在宅処遇に期待をかけることは不可能であり、この際少年を初等少年院に収容して環境を変えたうえで基礎的学力を養うとともに少年の性格等の矯正をはかることが少年の更生にとつて最も妥当な措置であると考えられ、少年を初等少年院に送致した原決定が著しく不当であるとは認められない。論旨はいずれも理由がない。

なお職権をもつて調査するに、原決定はその決定書の理由において、少年に対する非行事実のほかに虞犯事実も認定挙示しているが、その虞犯事実は「明石市立○○中学校長D・I作成の昭和五〇年五月二日付通知書に記載の審判に付すべき事由」を引用しているところ、右通知書の「審判に付すべき事由」においては「<1>少年法第三条第一項第一号-刑罰法令に触れる行為をした由、暴行恐喝、教師反抗、家出、怠学、喫煙等、<2>その性格又は環境に照して、将来罪を犯し又は刑罰法令に触れる行為をする虞のあるものと認められる」と記載されているに過ぎない。ところで、犯罪少年について保護処分の決定をするにあたつては決定書において少年審判規則三六条により「罪となるべき事実」を記載することが要求されているが、虞犯少年についてはその虞犯事実を記載することを要求する明文の規定はない。しかしながら、同規則二条三項により一般的に少年に対する決定書には理由を記載することが要求されているばかりでなく、虞犯少年に対する保護処分の決定であつてもそのことにより少年の自由を制約するものであることは犯罪少年に対し保護処分の決定をした場合と異なるところはなく、そのためその決定に対し抗告が認められ、抗告の理由として重大な事実誤認が含まれていることをも考えあわせると、虞犯少年に対する保護処分の決定の場合にも右少年審判規則三六条の規定の類推適用を認めるべきであり、したがつてその決定書においては判決書における罪となるべき事実の記載ほどその虞犯事実を厳格に特定して記載することは要求されないとしても、少くとも少年法三条一項三号に掲げる事由のいずれかに該当することを推知し得る程度に具体的に記載することを要するものというべきである。しかるに原決定で挙示された虞犯事実は前記のとおりであつて、これだけでは虞犯事由についての具体的表示に欠けるところがあり法令に違反しているものといわざるを得ないけれども、前記のとおり、右虞犯事実を除いて前記犯罪事実のみを少年の非行事実とみても、少年の要保護性が高いことと相俟つて少年は初等少年院送致決定を免れないのであるから、右法令の違反は決定に影響を及ぼすとはいえない。

よつて、少年法三三条一項後段、少年審判規則五〇条により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 瓦谷末雄 裁判官 小河巖 清田賢)

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